さ行の作家

朗読者

ベルンハルト・シュリンク 【新潮文庫】

ただいま公開中の映画「愛を読む人」の原作。
映画の宣伝を見て、なになに若い男の子がケイト・ウィンスレットにメロメロになる話?よさそうじゃないの!(←K・ウィンスレット好き)
と思って読んでみた。

よくも悪くも純文学というか…なんかすごく古典っぽいのは新潮文庫の活字のせいかしら。。(笑)

しかしただの恋愛小説と思ったら大間違いで、年上の女性との甘く不安定なひと夏の恋の思い出…から一転して、実はその女性はナチスの強制収容所の看守だった!再会の場は彼女を裁く戦犯裁判の法廷!とものすごくシリアスな状況に。いえずっとシリアスですけれども。

この作家は1944年生まれのドイツ人で、まさに「親の世代は国家ぐるみで犯罪者呼ばわり」という呪われた世代なんですね。
ドイツ人だというだけでよその国の人からは冷たい目で見られ、自分たちは何もしていないのに肩身の狭い思いをしなければならない。
自分の国家と親たちに対する否定と愛着に揺れ動く、失われた世代ですね。

そのせいなのかなんなのか、主人公の「ぼく」がどうも煮え切らないんだわ。。

頭ではぐずぐず考えてああだこうだとひねくり回すくせに、実際にはなんにもしようとしない。傷ついた顔をして斜に構えているだけで、ちっとも現実と和解しようとしない。

結局おまえは何をどうしたいんじゃ―――!

と怒鳴りつけたくなるこの感じ、誰かに似ている…と思ったら、村上春樹でした。(爆)
そういえばあの人も1949年生まれ。このふわふわした頼りなさは失われた世代の特徴なのか。。

というわけで、ちっとも動かない主人公の気持ちが全然理解できなくて、なんかモヤモヤしたのでした。。

でも、このヒロインがケイト・ウィンスレットというのはすごくいいと思うの。まさにイメージはぴったり。
映画は(タイトルからもわかるとおり)恋愛モノ仕様になってるみたいだけど、いっそそのほうがいいような気がする。わたし的には映画のほうがよさそうな予感。。

2009年6月

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チャイルド44

トム・ロブ・スミス 【新潮文庫】

スターリン体制下のソ連。不可思議な児童連続殺人犯の存在に気づいた国家保安省捜査官レオが単身で捜査に臨む。

この事件だけでも十分おもしろそうですが、さらに時代設定が時代設定なわけで、彼には何の捜査テクニックもないばかりか、そもそも夢の共産国に猟奇殺人犯なんかいちゃいけないので、国家としてはそんな殺人事件はないことになっている。

そこをあえて捜査する以上、主人公は国家反逆罪になってしまうんですね。
さらに彼を執念く嫌う同僚もいたりして、なんかもう大変です。
警察ものでもあり冒険ものでもありサイコものでもあるって感じでドッキドキ。
さすがは英国イアン・フレミング賞受賞作。

主人公が(途中でちょっと目覚めるとはいえ)特に自分たちの体制に疑問を感じたりしてないところがクールです。欺瞞に満ちた国家に不信を感じて立ち上がる!みたいな熱さはなくて、あくまでも自己を護ろうとする中で結果的に反逆者になり、殺人犯を追うことになっていく。

そこに説得力があって、なんか改めて、たとえ国家が全体主義であっても、そこに生きてる個人個人は私たちと同じなんだなあと。

己の保身のために家族隣人を密告するなんてひどい民衆だと思ってしまうけど、その社会システムではそれが当然なら、善し悪しは別として、やっぱやるんだろうなあ。
ネットオークションで2,000円のチケットを2万円で売るなんてひどいと思いつつ、まあ世の中ってそういうもんだと黙認するのとなんか似てると思う。
民衆はつねに、その枠の中で精いっぱい利を得ようとするわけで、それは民衆の質がいいとか悪いということではないんだなと。つか話が飛躍しすぎですね私。

あと、これは英国人作家の小説なんですが、ヨーロッパの人にとってのソ連(ロシア)って思ってたよりも北朝鮮なんだなと。

私の中ではロシアは中国と同列なイメージで、まあなんかいろいろ怪しいけど一応意思疎通はできる国という印象だったんですが、ヨーロッパの人はもっと差し迫った不気味さというか異常性を見ているように感じました。まあソ連だとやっぱそうなるか。

そうすると、将来もし北朝鮮が国を開いて曲がりなりにも国際社会の一員となったとしたら、アジアはあの国をどんなふうに見るようになるのかなあ。
ある意味、今みたいにひきこもってるのよりも気持ち悪い、怖いと感じるのかもしれないわ。…つか妄想が飛躍しすぎですね私。

2009年4月

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深海のYrr

F.シェッツィング 【早川書房】

長かった…。

確かに盛りだくさんな内容ではありますけど…。もうちょっとコンパクトになんなかったのかと。つかなんか進まないんだよ。どんどん読み進まないのはなぜなんだぜ。また訳のせいにしちゃうか?

クジラをはじめとする環境保護ネタを下地に、じわじわと迫る謎を描く第1部。
一転して津波と感染爆発でパニックものの様相を呈する第2部。
地球防衛軍(笑)が立ち上がり、SFドラマの第3部。
そしてお約束のハリウッドアクションになだれ込む最終章。

こう説明すると面白そうですね。いや面白かったですけれども。

でも長いよ!

基本的にはまさに映画のノベライズみたいな書き方で、いろんな人たちがあちこちで同時に動くのを短いカットでどんどんつないでいく「24」形式。ほんと流行ってんだなこれ。

しかしその間に膨大なデータ&資料が入ってくるので(これ自体はとても興味深いんですけど)そのドラマ部分がそもそも何だかブツ切りな感じ。

なので、登場人物たちの私的エピソードに至っては非常ーに唐突な感じで、キャラに深みを持たせようとしてるんだろうけど逆に中途半端な印象。しかもみんな結構あっさり死んじゃうし。
私的な背景設定の説明とかは省いて、ドラマの中で行動してる姿のみでキャラ立てしたほうがよかったんじゃないでしょうか。老婆心ながら。

つか、一貫して話の軸になる主人公がいないから話に入りにくかったのかも。
いちおうアナワクがそうなんだろうけど、存在感薄すぎるよ!共感しにくかったよ!

でも話自体は面白かったです。古くから親しまれてきた?アメーバ状で人間を襲う謎の物体Xを科学的に立証してみました的な。こういう理論であれば存在可能です、と。うーんSFだ。

それにしても、これドイツ人作家の小説なんですけど、アメリカ小説とはやっぱり大分おもむきが違って興味深かったです。なんたってアメリカがすごい悪役だし(笑)

とはいえ、ヨーロッパもたいがい独善的だなと。アメリカの独りよがりは今さら言うまでもないけど、ヨーロッパも全然まけてないと思いましたよ。

アメリカが「オレに任せろ!」とゴリゴリやるのを冷ややかに眺めてて、成功すればそれでいいけど実は失敗すればいいのにとひそかに願ってるような。
心の底では、「正しいことを正しくやれるのは結局オレしかいないんだよな」とか思ってそうだよ。

この話のテーマでもある環境保護にしたって、なんか独善的なのよね。
とにかく人間がしっかり監視してコントロールしないといけないんだ!みたいな。
つくづく、あの人たちにとって自然というのは食うか食われるか、支配するかされるかという、闘う対象なんだなと思います。

そもそも環境「保護」だもんね。どんだけ上から目線なのかと。
彼らにとっては「自然との共生」というのはかなり新しい概念なんでしょうね。

でもアジアに言わせれば、そんなもんウチら昔からやってますっつの。
海とも山とも動物ともバランスとってやってきて、クジラだってクマだって根こそぎ獲ったりしてなかったっつの。
それだって別に環境保護なんて考えじゃなくて、あくまでも生きとし生けるもののいのちを尊重するという精神からですから。
もちろん現代社会においては変わってきてるところもあるけど、そもそものスタンスが全然ちがうよね。

つまり何が言いたいかというと、
あんたたちにクジラとるなとか言われたくないってことよ!

2009年2月

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エトルリアの微笑み

ホセ・ルイス・サンペドロ/渡辺マキ(訳) 【日本放送出版協会】

非常ーにヨーロッパ的なお話。
古いものを愛し尊重し、頑固な田舎の老人の野性味あふれる生き様を是とする。ある意味懐古主義と申しましょうか。
まあ私は都会の人間なので、「こんなお義父さんがいたらめんどくさいよな~」と全面的に嫁に同情しながら読んだのですが(笑)

スペインではベストセラーになったそうで、ヨーロッパの人はやっぱこういうのが好きなんですかね。

都会と地方、老人と若者、昔と今、知識と経験…。
あらゆるものの対比や対立を描きつつ、語り口はあくまでも静かで上品で、悪い人は誰もいない。読後感もいたって穏やかです。

なんとなく、都会のアッパークラス向けの作品という感じ。
お金持ちの奥様がすてきなお部屋で読み終えて「いいお話ね」みたいな。
作品の中ではむしろ地方のたたき上げの頑固親父のほうをよしとしてるのに何故かしら。

2008年8月

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笑う警官

佐々木譲 【ハルキ文庫】

ハードボイルドを得意とする作者の本格警察モノと聞いて思わず購入しましたが、私この人の小説で途中で挫折したやつあったな…。

ストーリーは端整だしおもしろい。時事問題も取り入れ、ラストの盛り上がりも申し分ないんだけど…なんというか…決定的にキャラの魅力が乏しいというか。誰が誰だか読み分けられないよ!
警察モノはキャラが命なのよ。どんな事件であれ登場人物(役)はある程度決まってるんだから、それぞれの役にどの役者(キャラ)をあてるかで全然出来が違うのよ。キャラの名前がただの記号でしかない警察モノなんて萌えられない…いえ燃えられないよ!

この人いつもこんな感じなんですよね。ジャンルは冒険活劇系で、だからストーリー進行はおもしろいに決まってるのになんだか入り込みにくい。ずーっと説明文を読んでるような感じがするの。がんばって読むと全体としてはおもしろいんだけどね。。

2008年7月

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フェルマーの最終定理

サイモン・シン/青木薫(訳) 【新潮文庫】

すごいおもしろかった!
完全証明に至るまでの歴史もだけど、数論というものをすごくわかりやすく解説してくれています。数学ってなぞなぞみたいなものなんだー。そして意外とものすごく抽象的なものなのね。モヤモヤした概念や現象を数式という方法で定義するのが数学なのかとナニカが腑におちました(←わかってない・笑)

それにしても数学者ってスゴイ。ふつうじゃないよ!
ふつうの人では入れない領域にまで入らないと見えないものを見ようとしてるんだわ。考えつめるあまり心の病気になったり自死しちゃったりするのも仕方ないって気がするわ~。

2007年11月

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